本フォーラムについて

『儒学』をいかした『人づくり』とは?

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画家 森本 計一

ごあいさつ

近世日本の教育は、江戸時代に武士教育の目的で設立された、藩校に始まりました。そこでは儒学を中心とした「人づくり」のための教育が行われ、やがて庶民を含めた学校が創設されて、教育は国造りの礎となりました。この教育の基本理念は、明治以降の学校教育にも影響を及ぼし、文明開化の流れにも乗って、近代国家の建設へと繋がって行きました。

我が国が、産業革命を成功させアジアで最初に近代国家を建設する、という偉業を成し遂げた背後には、質の高い教育がありました。
また、第二次世界大戦後、わが国が廃墟から短期間に復興・発展の道を辿ることができたのも、江戸時代から綿々と続く庶民教育の下地があったからだと言えるでしょう。

1980年頃から、様々な教育問題が社会的に大きな関心を集めるようになり、個性重視、生涯学習体系への移行、国際化・情報化等変化への対応という三つの基本的考え方が導入されて、教育改革が進められました。

 21世紀に入り、自らビジョンや目標を作り、目の前の課題を解決する能力が必要とされるようになりました。この能力を高めるためには、知識偏重型ではなく、子供たちの想像力や創造性を引き出す「アウトプット教育」が必要となってきます。
おりしも、新しい時代に必要となる資質・能力を踏まえて「アクティブ・ラーニング(能動的な学習)の視点」が打ち出され、2020年度から小中学校で順次新しい学習指導要領が始まろうとしています。

 教育が時代とともに変遷するのは必然ではありますが、一方で時代を超えて受け継がれてきた先人の叡智を忘れてはなりません。古今東西の価値観がクロスオーバーする時代に生きる私たちは、今こそ温故知新によって近世日本の教育に立ち返り、現代の日本人自身が見失った古(いにしえ)の日本の知恵を知り、新たな世界観を築くべきではないでしょうか。
儒教の精神を取り入れた、深い文化に根差した豊かな教育によって、子供たちの「生きる力」を養い、「子供が豊かで幸せな生涯を生き抜くための教育」を構築・実践することは、意義深いと思います。

東アジアに今なお根付いている共通の理念である儒学を旗印として、日中韓3国の教育関係者が一堂に会して理解し合い、教育の諸問題解決に向けて取り組んでいただきたい。その願いから、2017年9月に、旧閑谷(しずたに)学校――現存する世界最古級の庶民のための学校――の所在地、岡山県備前市閑谷で、東アジア教育フォーラムを開催したいと思います。

旧閑谷学校は2015年4月に、旧弘道館(茨城県水戸市)、足利学校跡(栃木県足利市)、咸宜園跡(大分県日田市)と共に、「近世日本の教育遺産群―学ぶ心・礼節の本源―」として日本遺産第一号に認定されました。本フォーラムの開催には、これらの文化遺産を活用し、メッセージを発信していくという意図も込められています。

学問・教育に力を入れ、礼節を重んじる日本人の国民性として受け継がれてきた教育遺産には、我が国の文化・伝統を語るストーリーがあります。
そして、そのストーリーによって、文化財は今を生きる人々の支えとなり、未来を生きる人々の羅針盤になります。
遠くない将来に、これらの教育遺産群が世界遺産に登録され、混沌とした時代を生きる世界中の人々の未来を明るく照らす羅針盤になることを、願わずにはいられません。

  世界には様々な文化財がありますが、個々の文化財は人間の営みの記録であり、叡智の結集です。そこには、私たちの想像を超える力が秘められています。文化財の持つ力を利用して社会の諸問題を解決することを、私たちは期待しています。
文化財を過去の「遺産」に留めず、現代の「資産」として有効活用できれば、羅針盤としての機能が高められ、その文化的価値はさらに高まるのではないでしょうか。
それこそが、東アジア教育フォーラムを開催する真の意義であると、私たちは考えます。

  備前市は日本列島の中心よりやや西方に位置しており、備前焼――釉薬を使用せず「土と炎」だけで作られる素朴で伝統的な陶器――でもよく知られた、豊かな自然と文化と教育の町です。
教育を意味する言葉に「陶冶(とうや)」がありますが、「陶」は教育を意味します。「陶器づくり」「ものづくり」は、「人づくり」なのです。

このように、ここはしっかりとした伝統文化と教育が根付いた地方都市ですから、教育フォーラムの開催地としてふさわしいと言えるのではないでしょうか。

学びの原郷、岡山県備前市閑谷で、皆さまのご参加を心よりお待ち申し上げます。

2017年4月 
東アジア教育フォーラム実行委員会 

          

主催

  • 【東アジア教育フォーラム実行委員会】
  • 備前商工会議所
  • 公益財団法人特別史跡旧閑谷学校顕彰保存会

後援

  • 備前市
  • 岡山県教育委員会
  • 岡山市教育委員会
  • 備前市教育委員会
  • 瀬戸内市教育委員会
  • 和気町教育委員会
  • 岡山大学
  • 岡山県立大学
  • 株式会社山陽新聞社
  • OHK岡山放送株式会社
  • RSK山陽放送株式会社
  • TSCテレビせとうち株式会社

協賛

  • 両備ホールディングス株式会社
  • 株式会社ベネッセコーポレーション
  • 日本教育弘済会岡山支部

協力

  • 弘道館事務所 偕楽園公園センター(茨城県水戸市)
  • 史跡 足利学校事務所(栃木県足利市)
  • 日田市教育庁 咸宜園教育研究センター(大分県日田市)
  • 株式会社フーガ

主な登壇者

(敬称略)
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土田 健次郎

早稲田大学文学学術院 教授 日本中国学会理事長 日本儒教学会会長

1949(昭和24)年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業、同大学大学院文学研究科博士課程満期退学。博士(文学)。
早稲田大学の第二文学部長、文学学術院長、常任理事(副総長)、大隈記念早稲田佐賀学園理事長を歴任。
主な著書に『道学の形成』(創文社)『儒教入門』(東京大学出版会)『江戸の朱子学』(筑摩書房)『「日常」の回復-江戸時代の「仁の思想に学ぶ』(早稲田大学出版部)、訳注書に『論語集注』全4巻(平凡社)『聖教要録・配所残筆』(講談社)『論語五十選 素読のために』(登龍館)などがある。

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荒木 勝

岡山大学名誉教授

1949(昭和24)年生まれ。名古屋大学法学部卒業、名古屋大学大学院法学研究科修士課程政治学専攻同修了、名古屋大学大学院法学研究科博士課程政治学専攻単位修得退学。国際基督教大学博士(学術)。
岡山大学法学部教授(西洋政治史)、ポーランド共和国ポズナニ大学歴史学部客員研究員、英国ケンブリッジ大学古典学部客員研究員、岡山大学大学院社会文化科学研究科教授、同研究科長、東アジア国際協力・教育研究センター長を歴任し、岡山大学理事(社会貢献・国際担当)・副学長を経て、2017年4月岡山大学名誉教授。
主な著書に、『アリストテレス政治哲学の重層性』(創文社)などがある。

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森 熊男

就実小学校長 岡山大学名誉教授
 

1944(昭和19)年岡山県新見市生まれ。
岡山大学法文学部漢文学科卒業、東京大学大学院人文科学研究科研究室修士課程修了、同博士課程単位取得退学。
岡山大学教育学部講師、同教授を経て、岡山大学名誉教授。

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陳  捷

東京大学大学院 人文社会系研究科 教授

北京大学中文系卒業、修士課程修了、東京大学大学院人文社会研究系博士課程単位取得退学。博士(文学)。
北京大学、日本女子大学、国文学研究資料館の専任職を経て現職。専門は中国古典文献学。
著書に『明治前期日中学術交流の研究―清国駐日公使館の文化活動』(汲古書院、2003)『人物往来与書籍流転』(北京:中華書局、2012)『日韓の書誌学と古典籍』(共編、アジア遊学184、勉誠出版、2015.5)などがある。

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権 純哲

埼玉大学大学院 人文社会科学研究科教授

韓国高麗大学校哲学科卒業、同大学院にて博士課程修了後、東京大学大学院博士課程において博士(文学)学位取得。山口大学講師、助教授、埼玉大学教養学部助教授を経て現職。専門は儒学思想、韓国思想史、東アジア近代学問。
研究論文として「退渓哲学研究の植民地近代性―韓国思想史再考Ⅱ」、「松田甲の「日鮮」文化交流史研究」、「高橋亨の朝鮮思想史研究」、「ソンビ概念の生成―韓国思想史の一齣」、「大韓帝国期の「国家学」書籍におけるブルンチュウリ・梁啓超・有賀長雄の影響」などがある。

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林 幹夫

共立女子大学 文芸学部 教授

岡山市生まれ。早稲田大学第一文学部教育学専攻卒業、早稲田大学大学院文学研究科博士(後期)課程満期退学。
ロック、ルソーを中心とする教育思想・教育哲学を専攻。早稲田大学文学部助手、講師等を経て、現在共立女子大学文芸学部教授。「教育学概論」「メディア教育論」「教育課程論」「教師論」ほかを担当。
著書に『ルソーとその時代』(玉川大学出版部)『教育関係の再構築』(東信堂)『現代教育課程論入門』(共著、明星大学出版部)などがある。